ハミングバードの音楽とギター備忘録

ソロギター(Fingerstyle Guitar)の練習帳と音楽日記。

第16回 Hakuju ギター・フェスタ2022『原点回帰2』第一夜@Hakuju Hall(2022/08/19 ライブレポート)

東京のホールなのでよく知らなかったけれど、クラシックギターの演奏会がよく行われているホールのよう。毎年行われているクラシックギター・コンサートの企画に、今回はゲストとして鉄弦のギタリスト・押尾さんが招待された。もちろん、追っかけました。でも、今回楽しみだったのはそれだけでなく、聴きたいと思いつつ、関西での演奏会でなかなかタイミングが合わなかった、猪居亜美ちゃんも。彼女もメインゲストとのことで、押尾さんと一緒に観られるのなら、こりゃ行かねば!となった。

二部制で、一部が亜美ちゃん、二部が押尾さんと云う演奏会。

 

押し弾きにゲストで来る前から、YouTubeを観て気になって、Noteとか読ませてもらっても、とても参考になることを沢山書いてくれている。生徒さんを教えてらっしゃるけれど、自分や誰かがクラシックギターを弾く時に、どう音楽と向き合えばいいか、常に真剣に考えているのだな…と伝わって来る。たぶん、音楽とギターが大好きなんやろなぁ…となんとなく思っていた。

で、今回初めてその演奏を聴かせてもらい、感服したの一言に尽きる。

難しいであろう現代音楽のギター曲を、あれだけ「聴かせられる」のは凄いと思った。もちろん安定した超絶技巧の上に成り立っていると思うけれど、それ以上に、その曲がどう云う曲なのか理解し、自分の中でしっかり音楽として鳴っていないと表現できないはずだけど、亜美ちゃんは難曲を自分のものにしていた。ただ譜面通り演奏しても、ものすごく退屈になるだろう(笑)曲が、ちゃんとワクワクする音楽になっていた。だからとても聴きやすく、技術に圧倒されつつも、曲として楽しいと思えた。現代音楽を消化する力があるって素晴らしい。アンドリュー・ヨークと云う名前は私でも聞いたことがあるけど、改めて、もっと色んな曲を聴いてみたいなぁ…と思わせてもらった。押尾さん的な、ギターを叩く奏法とかも織り込まれてるのが面白い。

ロック好きの彼女は、ソロリサイタルではKISSやLinkin Parkのカバーを演奏しているみたいだけど、Rushとかの方がいいんと違うかな?と思ってしまった(笑) 国内のバンド・MUCCのファンのようだけど、そのデカダンスな系譜が、ああ云う現代音楽の解釈に繋がっているのかなぁ?とちょっと思った。

亜美ちゃんのアンコールゲストが朴葵姫さん。「アンクラージュマン」と云うのは、ギター曲として有名なようだけど、全然知らなかった。この曲だけはいかにも古典調。圧倒的な音楽を聴いた後だったので、なんか違和感を覚えたほど(笑)。でもこの曲の演奏で凄いなーと思ったのは、キュヒさんのメロディーの紡ぎ方。ただ音が粒立っているとかではなくて、はっきりと流線状のメロディーが聴こえて来て、とても気持ち良かった。ナイロン弦のクラシックギターって、ポロポロと音が途切れた感じがするので、それをあんなに歌わせるって、ほんとに素晴らしい表現力だと思いました。

 

15分の休憩を挟んで、第二部。押尾さんが、こう云うコンサートをクラシックのホールでする時にはお馴染みになって来ている、AGS(アコースティック・グローブ・システム)が今回8台くらい置かれていた。増えてる! でもそのお蔭か、小さいアンプは入っていたものの、ほとんど生音に近い状態で、細長い室内楽ホールの後ろまでしっかりと音が聴こえていた。

こう云うコンサートでは、ギブソンのL-1で演奏されるような曲がよく合うし、よく響くように思う。今回も中盤2曲が「黄昏」「リベルタンゴ」とお馴染みの曲。押尾さんの「リベルタンゴ」は何度聴いてもドキドキする素晴らしいアレンジ。

ちなみに1曲目「戦場のメリークリスマス」、本編ラストが「翼」で、叩き系の曲も、いつものエフェクトがたっぷり入った演奏と違って、生音に近い感じ。それがまたとても良くて、押尾さんのアレンジの良さが感じられた。

そしてアンコールに福田進一さん登場。私でも知ってるクラシックギター界で活躍される重鎮。演奏されたのは「美しき人生」。少しでも良くなるようにと考えてアレンジされたとの譜面は、直前に福田さんに渡されたそう。押し弾き聴いてても思うけど、押尾さん、相手が信頼できるクラシック音楽の演奏家だと、なんかいつも譜面がギリギリのような気がする…。それにしても今回のアレンジの、優しく温かく色鮮やかなこと。渡辺香津美さんとのデュオでも、聴かせて頂いたことがあるけど、その時のアレンジは、同じナイロン弦とのコラボでも、輪郭がはっきりした音で、ポップス感があるように思った。今回はもっと柔らかくハーモニーが響き、どこまでもふんわり優しくて、優し過ぎて心がキュッと切なくなるほど。号泣でヤバかったです。マスクまで濡れましたわ(笑)。こんな素敵なデュオが演奏できるなんて、身の程知らずにも、なんだか福田さんが羨ましかった。

更なるアンコールではレジェンダリーな荘村清志さんが加わって、なんと「ボレロ」を演奏! 圧巻でございました~。まさか、こんな3人ギターが聴けるとは! クラシックギターの巨匠2人と、希代のアコースティックギター・ヒーロー押尾さんのコラボ。普段オーケストラで演奏されるような「ボレロ」を3台のギターで表現。これまた直前に譜面をもらったと云う(笑)、巨匠お二人の曲の表現力も凄かったけど、この奇跡の共演は、押尾さんがいなければあり得ないと思うと、ほんとに今回聴きに来られて良かったと、幸せな想いでいっぱいになった。

 

ともあれこの夜も、素敵なホールで素晴らしい音楽を堪能できて最高でした。今までクラシックギターの音楽を聴いて来なかったけど、機会があれば荘村さんや福田さんのリサイタルも、聴かせて頂きたいな、と思った。

ナイロン弦、鉄弦のアコースティックギターに、エレキギターやスティールギターまで、更にはマンドリンやウクレレも。弦楽器ってほんとに楽しくて、まだまだいっぱい可能性があるんだろうなぁ…と感じる。